CROSS TALK vol.01 | YUKO NAGAYAMA × MASASHI KASAI
  • 永山祐子

    建築家 永山祐子

    1975年東京生まれ。昭和女子大学生活美学科を卒業後、1998年から2002年に青木淳建築計画事務所で勤務。2002年に永山祐子建築設計を設立。代表作は〈ドバイ国際博覧会 日本館〉〈ルイヴィトン京都大丸店〉〈四万温泉 積善館〉〈豊島横尾館〉など。京都精華大学、名古屋工業大学などで非常勤講師を勤め、武蔵野美術大学で客員教授としても活躍。

    https://www.yukonagayama.co.jp/
  • 笠井政志

    株式会社エクシィズ代表 笠井政志

    1994年創業の総合タイルメーカー。機能性や意匠性が高いタイルの製造、モザイクタイルアート製作などを手掛ける。世界的に活躍するデザイナーを迎えた新ブランド「TAJIMI CUSTOM TILES」は建築家やデザイナーに向けてフルカスタムタイルを制作。リサイクルタイルを研究開発するecoRevoでは、サステナブルなタイルを提供し、循環型サイクルの社会を目指している。

    https://x-s.jp/ https://tajimicustomtiles.jp/ https://ecorevo.jp/

text:Rie Sasada
Photo:Akihito Mizukami

トップクリエイターとタイルの作り
手が考える
「未来のタイル」とは?
建築家・永山祐子氏と
エクシィズ・
笠井政志代表のクロストーク

ドバイ国際博覧会の日本館、東急歌舞伎町タワー、四万温泉の積善館など
世界にわたってさまざまなプロジェクトを手がける建築家・永山祐子さん。
そして、ファブレスメーカーとしてオリジナルタイル製作やタイルのある空間を生み出す
エクシィズ代表・笠井政志さん。クリエイターとタイル従事者、
それぞれの専門分野から見えてくるタイルの可能性とは?

クリエイターと生み出す
オリジナルタイルのために

笠井: 永山さんと初めてお会いしたのは、2020年11月に表参道で行った「TAJIMI CUSTOM TILES」のローンチのイベントですね。   永山: 知り合いのSNSで展示の様子があがっていて。DESIGNARTの時期でたくさんのイベントがある中、これだけは見ておきたいと思っていました。   笠井: そうだったんですか? すごくうれしいです。

―まず、TAJIMI CUSTOM TILESのコンセプトを教えていただけますか。 笠井: 我々は、大きな生産設備を持たないファブレスメーカーですが、オリジナルタイルを作る際の見本を内製化して無料で製造するというコンセプトがTAJIMI CUSTOM TILESの始まりでした。

永山: そんなことをしてくれる人がいるんだ、と驚きました。今までにない初めての試みだと思います。   笠井: 僕が「見本代はタダでいい」と言ったら営業担当からは反対されましたね。でも、そこをクリアしないと土俵に乗れない。今まで、オーダーメイドを具現化する場合は、型代などのコストや納期の壁がありスタートの時点でつまずいていた。しかし、クリエイターは自分の作品にオンリーワンのプロダクトを入れ込みたいんですよ。だからこそ、まず社内で内製化できる設備とスタッフをしっかりと用意して仕組みをつくりました。

永山: 小ロットでカスタムができると思っていなかったので夢のような仕組みだと思いました。メーカーでは小ロットのサンプルは作りにくいし、体制が整ってないから細かく対応ができない。エクシィズさんは、クライアントとメーカーの間に入って、それぞれのメーカーの特徴を踏まえた上での合わせ技もできる。それも珍しいと思います。

笠井: 僕は、日本のタイルが生きる道で「少品種・大量生産・低コスト」はあり得ないと思う。低コストで国内生産できたとしても、もっと大量に作っている他国があるわけですから勝てない。そうすると日本で生き残るには「多品種・少ロット・短納期」。ここにしか道はないと思いますね。

長い歴史の中に「タイル」がある。
生活様式と物語性を持つ素材

―永山先生はストーリーからイメージやデザインを膨らませることもあるかと思いますが、
「タイル」のプロダクトに対して感じるストーリーはありますか?
永山: これだけ種類が多い素材は珍しいと思います。クレイペグ(タイルの原型といわれる粘土釘)の形状から何千年も経て変化し、年代の古いタイルからはノスタルジックさを感じられ、フェルメールの絵画にも描かれているなど歴史の中にタイルがあります。生活様式があり、物語性を持つ素材だと思いますね。

笠井: 昔は、特に住宅の中でタイルが機能を果たしていた。ヨーロッパでは、ストーブタイルといってマントルピース(暖炉の焚口周辺の装飾)は必ずタイルで仕上げ、トイレやお風呂の水回りもみんなタイルだった。日本で寂しいのは、水洗トイレ、ユニットバスになったらタイルを使わなくなっている現状。どんどん住宅の中からタイルが消えています。

―では、タイルのある空間に対してどういった印象をお持ちですか? 永山: タイルはよく使いますね。ツルッとした、いわゆる白い100角タイルが張られているとすごく清潔な感じがします。

笠井: やはり掃除のしやすさはタイルの特徴です。   永山: 以前、松本零士さんがデザインした隅田川を走る船「ホタルナ」の内装を設計した際、クライアントから「メンテナンスフリーが良い」とオーダーがあり、床とトイレブースの周り、ルーバーにも全てマットな大判タイルを使いました。そのおかげで「永山さんの船はタイルを使ったからメンテナンスが楽」だと言ってもらいました。そこが所有する船で比べても、いまだにホタルナはすごくきれいです。

笠井: タイルは小さいモザイクから大判まで使用目的に応じて変えられるというメリットもあります。形状や面状の豊富さ、色の幅広さはタイルの可能性ですね。

永山: 外装材には限りがあり使えるものが少ないですが、その中で最も色や形を表現できるのがタイル。ムラの風合いや表情も良いですよね。

笠井: 日本のタイルは自然な焼きムラを出せるトンネルキルンによる長時間の高温焼成です。海外は、セラミックローラーで製品を搬送する焼成炉「ローラーハースキルン」によって1時間ほどで焼き上がりますが、国産タイルは窯の中で一昼夜焼くため、温度差によってやきもの特有の表情や味わいが生まれます。

永山: 日本のタイルの焼き方は、海外ではびっくりされるのでは。

笠井: そうなんです。だからこそ、もっとこの業界がやるべきなのは、国産タイルの「やきものならではの良さ」を価値として上手く見せること。そうすれば僕はまだまだ市場があると思います。とにかくMADE IN JAPANのタイルを世界に広めていきたい。

人を刺激するのは、タイルの
焼き加減など
微細な差を捉える感覚

笠井: SDGsやCO2排出量についての配慮が必要な時代になっていますが、建築における環境配慮に関してはどう考えていますか?

永山: そうですね、リニューアルやリノベーションをして空間を作ったり、建築ストックを使ったりする風潮もあり、建物を長く残すことはよく考えていますね。そういった中でも、古いビルでは建設当時のタイルが残っている。ノスタルジックでかわいいですよ。やはり他と比べてもタイルは残る素材です。

笠井: そうですね。タイルの上にペンキが塗ってあって、剥がしたらすごく格好いいタイルが出てきたこともありました。

永山: 割れや外的な衝撃が無い限りは、やきものとして残り続ける。ずっと使われて、愛され続けるという要素も環境にとって良いことだと思う。

―建材においても環境にやさしい商品を選ぶべき、という動きはありますか。

永山: ファッション業界同様、SDGsやサステナビリティの考え方が入っていた方が良いし、世の中にローンチする際もそういうストーリーを語りたいという風潮はありますね。私も廃材を使って設計したりもしますが、「だからこそ面白い」と言える空間になってなければ使う意味がないと思います。ストーリーのためだけに使うのは本質的ではない。ストーリーと意匠性が合致していることが一番大事。   笠井: SDGsやサステナビリティが注目される傾向ですが、それこそ本来目指すべき在り方だと思う。   永山: 最近、建築で肌触りや手で感じる触感、つまり「テクスチャ」を大事にする風潮が戻ってきていると感じています。昔はもっとモダンで、ツルツルピカピカな表情が持て囃されていたんですが、今は木や土の肌触りが良いというムードになっている。たとえば、食べ物でも「ふわふわ」「もちもち」など触感を表す言葉を形容詞にして打ち出す商品が増えていますよね。これはつまり、人間の欲望の揺り戻しなんじゃないでしょうか。   笠井: それは、コロナ禍も影響していますか?

永山: コロナ禍でオンライン化され、インターネット上の仮想空間とリアル空間を対比させることも多い。私は、実空間を作る人として「メタバースをどう思いますか?」とよく聞かれますが、仮想空間で設計するのも面白いし可能性があると思う。ただ、まだ仮想空間は視覚と聴覚に限定されています。人は五感で空間を捉える生き物で、気付かないレベルだとしてもモイスチャーな感覚や森林に入ったときの空気を感じ取れますよね。だからこそ、リアルな空間には、木を使って匂いを変え、視覚と聴覚を超えた五感を刺激するテクスチャを落とし込んでいます。

笠井: 元々タイルは、「土を焼く」という意味のラテン語「tegula」(テグラ/ラテン語で覆うという意味)から由来している自然素材のプロダクトです。

永山: 今後は、よりテクスチャが求められる時代になっていくだろうと思います。タイルは、ツルツル、ザラザラなど焼き加減で微細な差があり、そのわずかな違いを感じる感覚は人間を本質的に刺激すると思う。そういったものを使いたいという考えが私のベースにあるので、タイルはそれらの要素や可能性を多く持っています。

―では最後に、永山先生が思い描く「タイルの未来」について聞かせてください。 永山: タイルには、いろいろな形とスケールがあって開発の余地があると思う。たとえば、家具の脚など全く違う製品に使う可能性。タイルが張るものだけでなく「土を固めて焼くもの」という原点に立ち返るともっといろいろ使えるんじゃないかと。

笠井: 実は、今日僕が見せた大きなかまぼこ状の口金は、ミラノサローネで出展する什器の脚なんです。

笠井: 実は、今日僕が見せた大きなかまぼこ状の口金は、ミラノサローネで出展する什器の脚なんです。   永山: ベンチなどのガーデンファニチャーも良いと思いました。うちにも置きたいです。   笠井: 永山さんは多治見に来てくださる時点で、タイル一枚一枚にこだわりがあるんですよ。今日もメーカーに行ったら真っ先にタイルへ駆け出して行かれて。笑

永山: あはは、そうですね。2回目だったのでどこに何があるのか分かっていて、いきなり動き出しちゃいましたね。湿式タイルの金型がどうしても見たくて。

笠井: 僕やタイルメーカーもうれしいですよ。施主さんが一緒に見に来られるケースもありますが、設計士と施主、そして我々がキュレーターとして間に入って一緒に作れると最高のものが出来上がるんですよ。

永山: そうですね、クライアントもぜひ来てほしい。私は前に訪れた時に金型がツボだったので、今日は古い金型を発掘していました。型を見ているだけで形や断面が想像できて、すごく楽しい。一日居てもいいなら居たいくらい。

―クリエイターの発想を刺激するものを、TAJIMI CUSTOM TILESで具現化できるんですね。 永山: タイルのカタログでは色や形を認識するだけになりがちですが、タイルの作り方やプロセスを知っているとカスタムできるポイントが分かります。

笠井: タイルの現物を見ながら、我々が思いつかない新しいアイデアを共有させていただくことも多いです。毎度驚きますし、我々もメーカーも新しい事にチャレンジする喜びを感じています。

永山: 私も訪れるたびに発見が多くて勉強させてもらっています。