INTERVIEW 01 若手のクリエイターとタイルづくりの現場を直接取材。
やきものとして、タイルの表現を続けたい。タイルと器を作り続ける寿山の挑戦とは。
若手クリエイターとタイルづくりの現場を直接取材。
寿山/有限会社 丸仙化学工業所

text:Rie Sasada
Photo:Akihito Mizukami

1930年(昭和5年)、陶器を専門に作っていた寿山(有限会社丸仙化学工業所)でタイルの生産が始まりました。寿山は、今では数少ない湿式タイルを製造するメーカーであり、器とタイルの両方を手掛ける作り手です。

岐阜県土岐市妻木の地で、創業から124年間やきものとともに歩み、日本のタイル固有の美しさを表現するプロダクトを製造し続けています。日本のタイルだからこそ実現できるものづくり、生み出せる表現とこれからの100年に向けた開発について寿山・代表取締役社長の水野寿昭さんにお話を聞きました。

土の不純物と釉薬から生み出す、日本のタイルの表現

―製造現場を見学させていただいた際の印象ですが、水野さんご自身がタイルをすごく好きなのだと感じました。 生まれてからずっとタイルは身近にあったので、50年以上はタイルの製造現場を見続けていると思います。タイルも含めて、やきものが好きですね。

―タイル、そしてやきもののどんなところに
面白さを感じますか?
やきものは、土を基本として釉薬、焼成が絡んで形成されます。タイルも、形と色の出し方が大事な要素です。土と釉薬によって、色や大きさが変わるので組み合わせのテストはずっと続きます。色は、土と釉薬で表現するものですが、実際に焼いてみないと分からないのが面白いですね。どこまでいっても、ものづくりが好きなのだと思います。

―では、国産タイルならではの魅力を教えてください。 やはり、やきものでしか生まれない表情でしょうね。これはタイルも一緒です。いろいろな素材の壁材、建材は存在していますが、タイルでしか出せない色と風合いがあります。
これらの魅力は、やきもの、陶器ならではの釉薬によるものだと思います。釉薬は、質感を出すためだけに何千年もかけて多岐にわたる開発が続けられてきた素材です。釉薬の開発は、日本は非常に独特で進んでいると思います。

―土や釉薬など自然の原料を使うからこそ生まれるタイルの表情はありますか? タイルの原料である堆積層は、自然からしか採れない土です。タイルの色合いや形の面白さは、土の不純物によって生まれます。たとえば、緑色に焼きあがる織部釉は酸化銅などのさまざまな金属が含まれていますが、その酸化銅が土の不純物に反応して渋い表情を出してくれます。不純物の多い土であればあるほど釉薬は面白く反応しますね。不純物をどうコントロールするのかも、私たち職人の役目かもしれません。

―製品としては色の再現性や形状の均一性を求められていると思いますが、そこを超えた面白さ、
基準からはみ出るからこその面白さはありますか?
たしかに、やきものだからこそ出る色合いは調整不可能な面白さがあります。しかし、私たちは利益を出すために調整して不良率は下げないといけない。不良率が多ければ再生産における難しさも感じてしまいます。
また、形が整っていることの美しさもありますが、一つ一つの形が不揃だからこその美しさもあります。あえて不揃いを表現できるのも、やきものの面白さでしょう。

「やきもの」としてのタイルの価値を受け継ぐ

―時代が変わる中で、タイルのデザインは変化し続けていると感じますか? タイルのデザインや形にも、時代の周期があると感じます。最近の自社商品では、昔の形状のタイルにプラチナの光沢を生み出す金属釉をかける商品が注目されています。昔のタイルでも、釉薬によって新しさを感じるのでしょう。また、寿山の原点ともいえる布目模様のタイルも色や組み合わせを変えて提案することによって人気が再燃しています。

―タイルの表情を生み出すことに欠かせない釉薬の開発は続けていますか? 釉薬の開発は、本当にむずかしいです。たとえば、金属の光り方をする結晶釉は、ロットによって色の誤差が大きく、色幅も安定しません。しかし、私はあえてここに販路を見つけたいと思っています。この釉薬だからできる表情や個性を生かすことが非常に重要だと思っています。
そして、日本固有の釉薬は、土の要素が絡む点も重要です。釉薬の原料が高騰して量が少なくなってきている中で、形によっても釉薬の色の表情が変化するので、タイルの形状の開発も進めています。

―クリエイターが、タイルに興味を持つ
ポイントを教えてください。
クリエイターの方々がタイルを面白いと感じるポイントは二つあります。まずは、土や釉薬が生み出す素材の面白さです。そして、もう一つは新しいプロダクトの開発に対してスピード感を持って提供できること。国内のメーカーは、海外のメーカーと比較しても小ロットに対応できます。やはり、ものづくりの対応力を求められているのではないでしょうか。加えて、我々が開発している釉薬をクリエイターの皆さんに見ていただければ面白い空間がどんどん生み出せるのではと思っています。 ―では、タイル業界における課題については
どのように感じていますか?
現在は閉山してしまっている鉱山が多いので、土が豊富に選べない状況にあります。しかし、土が選べない中でも、土と釉薬の開発をし続けてタイルを知っていただく。この挑戦が大きなテーマになっていくと思います。

―100年後の未来を受け継ぐ次世代に、タイルの魅力をどのように伝えていきたいですか? タイルは、どこまでいっても素材なので貼らないと商品になりません。貼ってかっこいい、貼ってかわいい、どんな場所に貼るのかはお客様次第です。昔と違って、外壁に全面タイル張りをする建物が減ってきており、タイルの用途は変化していますが、面白いタイル、美しいタイルは日々生まれ続けています。それを見て、知ってほしいというのが私の願いですね。

  • 水野寿昭

    寿山/有限会社丸仙化学工業所

    代表取締役社長:水野寿昭

    1898年創業、美濃焼の伝統的な技法を使った器と、内外装特殊タイルを製造するメーカー「寿山/有限会社丸仙化学工業所」代表取締役社長。

  • 花山和也

    山の花

    オーナー:花山和也

    1986年愛知県名古屋市出身。作家ものや地元メーカーの工業製品など「東濃」で作られるやきものを販売する、器のセレクトショップ「山の花」オーナー。