INTERVIEW 02  若手のクリエイターとタイルづくりの現場を直接取材。
日本のタイルには、絶対にペンキでは表現できない色がある。ここから100年も、新しいタイルは生まれ続ける。
若手クリエイターとタイルづくりの現場を直接取材。
杉浦製陶株式会社

text:Rie Sasada
Photo:Akihito Mizukami

モザイクタイル、全国一の生産量を誇る岐阜県多治見市笠原。この地で1950年からタイルを作り続けているのは、タイルメーカーの杉浦製陶株式会社です。意匠性の高いモザイクタイルをはじめ、建物の外壁や床に使用する外装タイル、欧米やアジアに向けた輸出タイルなど、約100,000㎡の敷地で多品種少ロットの工場と大型のタイルを作る工場に分かれて生産されています。

「やきもの」としての美しさを持ち合わせる日本のタイル。その魅力と価値に迫ります。そして、「タイル」と名称が統一されてから100周年を迎える2022年。これまでの歴史と、これからの100年に向けた希望について杉浦製陶・代表取締役社長の林航さんにお話を聞きました。

やきもの本来の持つ色幅、表情の差が国産タイルの特徴

―今回、タイルの製造工程を見させていただきました。タイルのまち・笠原では、
どのようにタイルが作られてきたのでしょうか?
多治見の笠原は、乾式タイルのメーカーが多い地域です。乾式タイルと湿式タイルの違いは、製造方法にあります。20%程度の水分を含んだ原料を使う湿式タイルは、口金に当てて押し出し、ピアノ線でカットして生産します。乾式タイルは水分7%程度の原料を金型でプレスして成形するという違いがあります。国内の生産量は、大量生産しやすい乾式タイルの方が多いですね。
タイルは、メーカーで1から10まで作るわけではなく製造工程が分社化されており、釉薬工場、原料工場、金型工場などで仕事が分かれています。原料を購入して成形し、釉薬を掛けて焼成するところまでを担うのがタイルメーカーの仕事です。

―日本のタイルと海外で作られるタイルの
違いを教えてください。
日本のタイルは、海外のタイルと製造方法が大きく違います。代表的なのは、窯の違いです。日本では「トンネル窯」を採用しているところが多く、海外は「ローラーハースキルン」を使っています。ローラーハースキルンは、大判タイルにインクジェットで色を加えて生産するのが主流です。インクジェットの良い点は、いろいろな柄が作れること。しかし、インクでプリントするため、やきもの本来の見え方や特徴が失われる側面はあります。
日本のタイルは、昔から「水拭き施釉」という霧状に釉薬をかける技法で作られているため、釉薬を吹きかけた際のムラによってタイル1枚1枚の表情に個性が出ます。さらにトンネル窯で焼くため、窯の上部・下部で焼き加減の差も現れます。そういった点で、やきもの本来の持つ色幅、表情の差が生まれるのが日本のタイルの特徴だと思います。

―日本のタイルならではの魅力、面白いところはどんな点でしょうか? タイルは、1250度以上の高温で焼くため、出せる色に制限があります。その中で表現するのが面白いですね。逆に、その限られた中で作るからこそ生み出せる色がある。絶対にペンキでは表現できない色が釉薬の特徴であり、日本のタイルの魅力かと思います。

―まさに、ここにあるカラーサンプルが物語っています。タイルは、意匠性以外にも機能面での
価値もあります。機能性のメリットも聞かせてください。
タイルは、高温で焼き締めているため耐候性があります。そして、吸水性が無く汚れにくいです。加えて、タイルにはさまざまな種類や形状、サイズのバリエーションがあるため、それらを組み合わせてデザインできるのも大きなメリットです。デザイナーや建築士などクリエイターそれぞれで、同じタイルでも使い方によって全く違う表現ができるのもタイルの持つ機能として面白い点かと思います。

タイルは、何億年の歳月をかけ自然が作り出した
粘土を使用するプロダクト

―クリエイターとの関わりの中で、タイルの可能性を感じる場面はありますか? クリエイターの皆さんは、タイルのデザインや色の表情、バリエーションに驚かれます。加えて、製造現場を見学するとすごく手を掛けているのが伝わるので、タイルに愛着を持って「このような素晴らしい物を使いたい」と言ってくださるケースが多いです。丁寧に手間を掛けて作られたプロダクトを採用したいというクリエイターが、特に若い層に増えている印象はあります。

―タイルは、一枚一枚の単体では完結しないプロダクトです。
クリエイターによる、タイルの使い方で驚かされることもありますか?
タイルは、空間に施工されることによって完成するプロダクトです。1枚のタイルをどうやって使うか、空間にどうやって貼るかなど、デザイナーや設計士の構想によって用途が決定します。さらに施工者の技術で完成度も変わります。つまりタイルの完成形は、最後まで見えません。タイルメーカーとしても、自社で作ったタイルが施工された時に「こんなに美しい物だったのか」と感動することは多々あります。

―実際、タイルの使い方や組み合わせによって
想像を超える空間になることはあるのですね。
空間との組み合わせでタイルの見え方が変化します。弊社で製造している輸出用プールタイルを活用した事例があります。プールに水を張った時にきれいな水に見えるように青いタイルに仕上げていますが、そのタイルを水族館の入口の壁に使っていただきました。ダウンライトの薄暗い空間で採用され、入口を抜けた瞬間、まるで水の中にいるような感覚に。メーカーでは考えつかなかった使い方で面白い発想でした。

―いま、変化の激しい時代を迎えています。 今後、タイル業界としてどのように変化していきたいですか? 最近、若い世代にものづくりがしたい人、タイル作りに興味がある人がどんどん増えてきていると感じます。そういった方がタイル業界に入ることによって、新しいムーブメントは起こるはず。そういった人たちの手によって、ここから100年のタイルは出来ていくのだろうと肌で感じているところです。

―ものづくりに関心のある人たちは、タイルをどのように見ているのでしょうか? たとえば、芸大卒の学生が入社して商品開発する際には「タイルとは、こういう物だ」と伝えず好きなように作ってもらいます。そうするとびっくりするデザイン、ときに石の塊のような物が出来上がったりもしますが、それが新鮮で面白い。タイルは自由で可能性があるのだと感じますね。

―既存の枠に当てはめないことで、新しいタイルが生まれていく可能性を感じます。 ずいぶん前から「もうタイルは、やり尽くした」と思っていましたが、全くそんなことはありませんでした。1年後、2年後にはどんどん違うタイプができ、新しい発想が生まれ続けています。
タイルは工業製品化したことで国内に広まりましたが、もう一度歴史を戻すかのように、「やきものらしさ」が求められつつあります。この流れは、これから先の日本のタイル産業の在り方につながっていくのではと感じています。

―タイル名称統一100周年を迎えましたが、
ここから100年はどのような未来が
待っていると思いますか?
100周年という一つの区切りではありますが、タイルの長い歴史から見ると「たったの100年」かもしれません。タイルは、四千年前から存在するプロダクトです。この先の100年も、タイルにとってはあっという間に過ぎていく時間かもしれませんね。

―後世に、日本のタイルについてどんなことを伝えていきたいですか? タイルは耐候性や汚れにくさなどの機能がありますが、それはタイルの魅力の一部だと気付きました。タイルは、原料に何億年という歳月をかけて自然が作り出した粘土をぜいたくに使っているプロダクトです。そのような建材は他にはありません。
最初に人類は木や土を建材に使い、日干し煉瓦を作り、それを焼いたことでタイルになったのでしょう。人間が考え、化学反応させた最古の建材かもしれません。少し大げさな言い方をすると、何千年とタイルに囲まれて暮らしてきた人間は、タイルのある空間にホッとする感覚を持っているのではないかと思っています。物理的欲求を超えて、もはや生理的欲求として染み込んでいる。だからこそ、タイルのある空間が好きなのだと思います。
タイルには、原料の歴史と人が使い続けてきた歴史がある。この2つの歴史こそ、他の建材には絶対追いつけない特徴だとも思います。

  • 林航

    杉浦製陶株式会社

    代表取締役社長:林航

    1950年創業、金型・陶土・釉薬・成形・焼成・ユニット加工を自社一貫生産できる国内唯一のタイルメーカー「杉浦製陶株式会社」代表取締役社長。

  • 花山和也

    山の花

    オーナー:花山和也

    1986年愛知県名古屋市出身。作家ものや地元メーカーの工業製品など「東濃」で作られるやきものを販売する、器のセレクトショップ「山の花」オーナー。